白糸刺しゅう

白糸刺しゅうに使う刺しゅう糸「アブローダー」のお話

パントン久美子

白糸刺しゅうに欠かせないものの一つにアブローダーという刺しゅう糸があります。

白糸刺しゅうを刺す方にはお馴染みのアブローダーですが、白糸刺しゅうを始めるまでは耳にしたことがなかった方も多かったのではないかと思います。今日はアブローダーについて書いてみます。

アブローダーってどんな糸?

DMC、アンカーから出ている刺しゅう糸の一種です。ツヤがあって柔らかいのが特徴的な糸なので、サテンステッチなどもふんわりと刺すことができます。

刺しゅう糸で一番よく知られている糸は、25番糸と呼ばれる糸で6本の細い糸をよって1本にしたものですが、アブローダーは25番糸よりも断然柔らかく、ツヤがある糸です。

アブローダーはフランス語のa(~のために)とbroder(刺しゅうする)という単語から成り立っていて、「刺しゅうするための糸」という意味の糸です。

アブローダーは、19世紀後半にフランスで発明されました。当時、刺しゅうは貴族や王室の間で流行していて、高級な糸が求められていました。アブローダーは、王室や貴族のニーズに応えるために開発された糸だったのです。

12世紀頃に発明されたという歴史の長い白糸刺しゅうですが、アブローダーが使われ始めたのは、意外と最近です。これはヨーロッパの歴史にも関係がありますが、ヨーロッパに綿が入ってきたのが18世紀頃なので、それ以前のヨーロッパには麻かウールしかありませんでした。刺しゅうも綿がヨーロッパ大陸に入ってくる前はウールの糸や麻糸、金糸が使われていました。

イギリスがインドに入植してから、ヨーロッパで綿が流通するようになるのですが、この辺の歴史はすごく残酷なので興味のある方がいたら調べてみてくださいね。

こんな歴史を持つアブローダーですが、その特徴は下のようになります。

  • 一般的には最高級の100%長繊維エジプト綿でできています。
  • 分けられない4本の撚り糸からできていて、一本取りで使います。
  • 甘撚りと強撚りがあります。
  • 甘撚りはタッセルやカットワークなどに向いていて、ふっくらとした仕上がりに、強撚りはイニシャルモノグラムやハーダンガーなどに向いていて、しっかりとした仕上がりになります。
  • 太さ(番手)は、16番、20番、25番、30番の4種類があり、数字が大きいほど糸は細く、小さいほど太くなります。

アブローダーの使い方

アブローダーは必ず1本取りで使います。25番糸のように割いて使わないでくださいね。今はアブローダーで一番細い糸は30番になりますが、昔は40番まであったそうです。

私がフランスでプリュムティという白糸刺しゅうを習っていた時に聞いた話ですが、アブローダーの40番がある頃からプリュムティを刺している方達は、30番だと太すぎてしまうのでアブローダーを割いて使っている方もいるとか。

プリュムティなど技法によっては細い糸の方がきれいに仕上がるので気持ちはすごくわかるな〜と思いました。繰り返しになりますが、アブローダーは割いて使う仕様になっていないので、割かないで使ったほうがきれいに仕上がります。

アブローダーの糸は毛羽立ちにくい加工がされていますが、何度も何度も布に刺していく過程で毛羽だってくるので、1回分をあまり長くせず、40cmから長くても50cmくらいがいいかなぁと思います。

刺しゅうをきれいに仕上げる上ですごく大事なことなのですが、刺し間違えて一度ほどいた糸は絶対に使わないでください。少しもったいない気もしますが、一度解いた糸は毛羽だっていたり、撚りが取れています。刺し直すときは新しい糸で刺してくださいね。

そして、刺している途中で糸の撚りが緩くなってくることがありますが、こういうときは指で糸を撚ってあげるか、やはり新しい糸に替えてしまう方がいいです。

特にサテンステッチを刺している時は、きれいなツヤが出ないことがあるので、ぜひ新しい糸に替えてくださいね。

DMCとアンカー、どっちがいい?

まず入手のしやすさからいうと断然DMCです。アンカーのアブローダーを置いている手芸屋さんはそんなにないので、アンカーは入手しにくい糸と言えます。

入手のしやすさから、私の動画講座ではDMCのアブローダーを使っています。キットに入っていた糸がなくなってしまった時(そうならないように、キットにはかなり多めに糸を入れていますが)や、自分でもう1つ作ってみようと思ったときに、やはり糸が入手できないと出鼻がくじかれちゃうので…

DMCのアブローダーはユザワヤさんにもあるし、アマゾンでも購入できるので、入手のハードルはかなり低め。

でも個人的にはアンカーの方が好きです。私が趣味で刺す場合はアンカーの糸を使うことが多いです。

アンカーとDMCの糸の一番の違いはツヤ感で、アンカーの方がマットなんですね。白糸刺しゅうってエレガントな図案が多いので、ツヤツヤよりはマットな方がイメージに合うというのが一番の理由。

パールコットンという糸があります。言葉のとおり、パール感のあるツヤ糸なんだけど、アンカーのパールコットンでツヤはあるけど控えめですごくきれいです。

アブローダーもツヤはあるんだけど、控えめですごくきれいなんです。

この辺は好みもあるので、ぜひDMCとアンカーの両方を使ってみて欲しいです!

アブローダーが向いている技法

へデボやシュバルム、カットワーク、プリュムティなどいろんな白糸刺しゅうの技法に使えます。

シュバルムは必ずアブローダーで刺します。へデボはボッケンというスウエーデンのメーカーの麻でできた糸を使うことが多いのですが、ボッケンは扱いが難しいこともあり、アブローダーを使うことがよくあります。

シュバルムだと16番〜25番を、へデボだと20番〜30番を使うことが多いです。

プリュムティという芯入りのサテンステッチもアブローダーで刺すことが多いです。プリュムティは30番を使うことが多いと思います。フランスで習っていたときはシルクの糸を使う人もいましたが、シルクだとお値段が…😱

アブローダーは太さによって長さが変わるのですが、DMCはアブローダー1本170円(税別)です。(2023年9月現在)長さは以下のとおり。

DMCアブローダー

16番 20m (一番太い)

20番 28m

25番 32m

30番 40m (一番細い)

私は京橋の越前屋さんか大阪の亀島商店さんのどちらかで購入しています。

越前屋さんでは箱で買うと少しお値段が安くなるので、よく使う太さの糸は箱でまとめ買いしておくと良いですよ〜。

ABOUT ME
パントン久美子
パントン久美子
デンマーク在住 白糸刺繍家
2009年スカルス手工芸学校に留学しヘデボを学ぶ。2012年〜2017年まではパリ在住。ルサージュやフランスの白糸刺繍教室で刺繍を学ぶ。2024年7月文化出版局より「whitework ヨーロッパの白糸刺繍技法より」を出版。現在はコペンハーゲン在住。
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