白糸刺しゅう

イタリアの白糸刺しゅう:ウンブリア刺しゅう

パントン久美子

もう3ヶ月以上前のことになりますが、9月にイタリアのウンブリア州にウンブリア刺しゅうを習いに行ってきました。去年、イタリアのお気に入りのショップからソルベッロ刺しゅうの本を購入しあまりに素敵な刺しゅうに刺してみたくなったのですが、オンラインで教えてくれる先生が見つからず、イタリアで習うしかないと行ってきました。

ウンブリア州はイタリアのちょうど真ん中あたり。ローマとフィレンツェの中間くらいに位置するイタリアで唯一、海のない州になります。州都はペルージャ。その昔、サッカーの中田英寿選手がペルージャでプレイをしていましたね。(年齢バレる〜)

春先にストーリーでイタリア刺しゅう旅行にご一緒してくれる方を募ったところ、受講者の方が1人一緒に来てくださり、2人でイタリアに行ってきました。ローマから高速バスで2時間くらい。ローマからペルージャまでの工程がだいぶ不安だったので、2人で行けて心強かったです♡

ペルージャをベースにイタリアのヴァルトピーナで開催された刺しゅうの展覧会、アッシジ観光、ウンブリア刺しゅうのレッスン受講と、1週間ほど激しく動き回りました。

ウンブリア刺しゅうとは

ウンブリア刺しゅうってあまり馴染みがない刺しゅうですよね。白糸刺しゅうにカテゴライズされるヨーロッパで発展した伝統的な刺しゅうになります。プント・ウンブロとかソルベッロ刺しゅうと呼ばれています。

ウンブリア刺しゅうはイタリアのウンブリア州で刺されていた刺しゅうで、イタリア、スペイン、ポルトガルの刺しゅうに使用された古代の『忘れられた』アラブの刺しゅう技法を復活させたものです。

カウントリネンに少し太めの糸で刺します。太い糸を2本取りで刺す部分もあり、コントラストがしっかりと出てとても素敵なのです。図案はアラベスク模様(唐草模様)が使われたり、ヨーロッパとアラビアの両方の雰囲気を感じるものが多いです。

なんとなく現代を生きる私たちは西洋が進んでいるように思いがちですが、ルネサンスの前はアラブのほうが2000年以上先を進んでいたと言われるほどアラビア文化のほうが発展していました。アラビアの文化は海を渡ってイタリアからヨーロッパに入ってきていたので、ウンブリア刺しゅうもアラビア文化の影響を受けています。

ペルージャではソルベッロ美術館にも行きました。ウンブリア刺しゅうの古い作品もたくさんありました。レティチェロの作品やチュール刺しゅうの作品もあって、興奮しちゃいました!

ソルベッロ刺しゅうと呼ばれるのは、ソルベッロ侯爵と結婚したアメリカ人の女性、ローマインさんが作った刺しゅうということに起因します。ローマイン侯爵夫人は結婚後にパラッツォ・ソルベッロ(美術館になっています)に住むことになりました。彼女は夫の家族が所有する農村地帯の人々を助けたいという強い願いを抱き、当時新しい教育法だったモンテッソーリ方式の学校を設立しました。この学校では、子どもたちに教育を施すだけでなく、女性たちに裁縫や刺しゅうのレッスンも行いました。そしてフィレンツェの刺しゅう職人であるカロリーナ・アマリとともに、「プント・ウンブロ(Punto Umbro)」として知られる刺しゅう技法を開発しました。

簡単ですが、ウンブリア刺しゅうの歴史をご紹介しました。ソルベッロ刺しゅうとウンブリア刺しゅうは同義ということになりますね。その昔の西洋では女性が自立をするために刺しゅうや手仕事を教えていました。修道院がその役目を果たすことが多かったと思いますが、こうやって刺しゅう学校を作ることで刺しゅうの技術が保全されているケースもよく目にします。

私たちが気軽に楽しんでいる白糸刺しゅうは、たくさんの人によって受け継がれてきた立派な技術なんだなって改めて感じました。

下の画像が今は美術館になっているパラッツォ・ソルベッロの入り口。中も本当に素晴らしかったです。小さな美術館ですが、ガイドさん(イタリア語か英語で事前予約が必要)の案内もお願いできるので、いろんな面白いお話を聞くことができましたよ。

図書室の前の道は石のブロックではなく、石そっくりにペイントをした木でできているそう。足音が気になって読書に集中できなかった伯爵が石から木に変えたんだそうです。と、こんな面白い話などもたくさん聞けて楽しかったです!

ウンブリア刺しゅうをイタリアで習いました

イタリアのペルージャから列車で30分ほどの場所にウンブリア刺しゅうのお教室があります。ウンブリア刺しゅうの技術保全のために通常はイタリア語で無料でレッスンが行われているみたいですが、私たちはレッスンフィーをしっかりとお支払いし、生徒一人に先生一人をつけていただき、みっちりとレッスンを受けてきました。

駅からバスもないので、先生に送迎をお願いしました。お教室は小高い山の上で、景色も素敵で近くから湖もきれいに見えて、こんな場所で刺しゅうを習うことができるなんて夢みたい!って幸せを噛み締めていました。

写真は先生が車を停めたお教室の前の道。糸杉がかわいい。

ランチをするにもレストランやカフェもなさそうなので、ホテルの近くでサンドイッチを買い、お教室に隣接する公園で食べて、近くのカフェでコーヒーを飲みながら午前中に習った刺しゅうの復習をして。夜は夜中の1時くらいまで刺しゅうの練習をしていました。

下の写真がアトリエ。たくさんの作品が並んでいます。本物のウンブリア刺しゅうの作品たちの写真もたくさん撮りました。デンマークに帰ってから写真を整理したら同じ写真が何枚もあって、自分の必死さに笑えましたw 針目などは実物をちゃんと見たいので、穴があくほど見てきましたよ!

先生方はご高齢で英語ができないとのことだったので、初日は通訳の人もお願いしました。2日目は、右とか上とか簡単なイタリア語を使ったりgoogle翻訳で乗り切りました。

ウンブリア刺しゅうは本も少ないしイタリアでも刺す人がいないので、先生方はウンブリア刺しゅうが消滅してしまうことを危惧されていて、近隣の小学校にも教えに行っているそう。小学生が刺したい刺しゅうではなさそうだけど、一人でも刺せる人がいれば消滅しないですもんね…

なので、先生は私たち日本人がウンブリア刺しゅうを刺してくれて本当に嬉しい!!と言ってくれて熱心に教えてくださりました。

私もいろんな白糸刺しゅうの技術を守り後世に伝えていきたいという気持ちで動画講座を作っているので、意味のあることをしているんだなと襟を正す気持ちになりました。

おまけ

このイタリア旅行中、毎日イタリア料理で食傷気味になりました。イタリア料理大好きだけど、毎日は辛い。ペルージャの旧市街にはほんとにイタリア料理店しかないのです。

物価が高いコペンハーゲンからするとペルージャの物価はとっても安くてありがたかったです。イタリアの中でもペルージャは物価が安いとのことで、たくさんの学生さんたちが住んでるとか。

上の写真はとある日のお夕飯。9月の上旬で日中は30度くらい、朝晩も22〜23度でとても過ごしやすい時期でした。夕焼けもきれいでワインも進む〜。でもこの後ホテルで1時過ぎまで刺しゅうの復習を頑張りました。

ペルージャは街中に大きな要塞があって、ホテルから旧市街までは要塞を通って行きます。歴史的な建造物がたくさん残っているとっても素敵な街でした。最後の日の夜、お月様もきれいでお部屋からずっと眺めてしまいました。教会も素敵でしょ。

お買い物はほとんどしませんでした。いつもコペンハーゲンで買っているペストが半額だったのでスーパーで買いましたが、機内持ち込みできずセキュリティで没収されましたw

初日に旧市街にマーケットが出ていて、古い刺しゅう布などを扱うお店があり、レティチェロが施されたベッドカバーがありました。1日悩んで結局値切って購入!本物のレティチェロを見る機会がなかったので、すごく嬉しかったです。ベッドカバーなので、刺しゅうが入っている部分が少ないのに布だけ無駄に大きくて購入を躊躇したけど、買ってよかった〜。

↓こんな感じで雑に並んだ中にお宝あり。店主のおじさんは布を売ってるのにタバコをプカプカ吸っていて。ゆる〜い感じもまた良しとしましょう。

ウンブリア刺しゅう動画講座

本場ウンブリアで習得したウンブリア刺しゅうの動画講座を作りました。ウンブリア刺しゅうを刺してみたい方はぜひ受講をご検討ください。

アラビア文化特有の華やかさとイタリアらしい格調を感じる華やかさの両方を感じることのできる図案がいいなと思い、パターンを起こしてみました。

ウンブリア刺しゅうを習える場所ってないと思うので、我ながらほんとに良い講座を作ったなと思っています。

動画講座で作るものはウンブリア刺しゅうのクロスとピンクッションとニードルブックです。ウンブリア刺しゅうのステッチをほぼ網羅しています。

ウンブリア刺しゅうは目の詰まったカウントリネンに刺すのですが、織り糸を数えなくていいので細かすぎる刺しゅうが苦手な方にもぴったり。

私は織り糸を数えるのはあまり得意ではないので、ウンブリア刺しゅうはストレスフリーで刺せるところも気に入っています。

ステッチも今までに見たことがないおもしろステッチがあるので、刺していても楽しいです。あと糸が太いのでどんどん進んで気が楽。進みの遅いステッチだと全然仕上がらなくて焦ったり飽きたりするのですが、ウンブリア刺しゅうはサクサク進みますよ!縁かがりも今までに刺したことがない刺し方で本当に面白いのです。

ウンブリア刺しゅうの何が好きって、ある種、原始的に思えるステッチが多いこと。白糸刺しゅうはいろんな白糸が影響しあっているので、ウンブリア刺しゅうに使われたステッチを改良してシュバルムやヘデボなどに取り入れられたのだろうと思いました。

白糸刺しゅうってほんとに奥深い。

長い間、白糸刺しゅうに全身全霊を注いできましたが、まだまだ知らないことがたくさんあるんだなと自分の未熟さを痛感しました。これからももっと面白い技法やステッチに出会えるだろうと思うとワクワクします!

知らなかったことを知ることも楽しいし、知っていることが繋がっていくことも楽しい。白糸刺しゅうが私の人生を豊かにしてくれていると改めて実感したイタリア刺しゅうの旅でした。

これからももっと旅に出て、白糸刺しゅうだけでなく、白糸刺しゅうに関係のある文化なども一緒に学んでいきたいです!

ウンブリア刺しゅうに興味のある方はぜひ下のボタンから詳細をご覧くださいね。

ABOUT ME
パントン久美子
パントン久美子
デンマーク在住 白糸刺繍家
2009年スカルス手工芸学校に留学しヘデボを学ぶ。2012年〜2017年まではパリ在住。ルサージュやフランスの白糸刺繍教室で刺繍を学ぶ。2024年7月文化出版局より「whitework ヨーロッパの白糸刺繍技法より」を出版。現在はコペンハーゲン在住。
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